『 あめ の 日 ― (1) ― 』
ぽつ ぽつ ぽつ ・・・
かなり緩慢な間隔で 水滴の跡が地面に残る。
ほんの小さな水玉でしかないので 気にする人はあまりいない。
「 ? あ やだあ〜〜〜 もう降ってきたのぉ〜〜 」
改札口から足早に出てきた金髪女性が 手の平を空にむけた。
「 ・・・ ま このくらいなら いっか ・・・
とにかく〜〜〜 今日は駅向こうスーパーで牛乳とヨーグルトの特売☆
こ〜れは行くっきゃないわよね 」
彼女は そのままほとんど駆け脚で、駅の反対側に突進していった。
「 うわあ〜〜 混んでる・・・ あは 皆考えることは 同じねえ〜
えっと ウマい牛乳 でしょう 昭和よ〜ぐると・・・ ジョーはどうしても
イチゴ入り がいいっていうのよね〜 あ これこれ ・・・
あ! チーズの安売りもやってる! 笑い牛さんの、あるかしら ・・・
あったあ〜〜〜〜 」
がさ ごそ。 がば がば。 ごっそり ばっちり。
買い物カートは たちまち山盛りになった。
「 〜〜 です はい三番でお会計 お願いします〜〜
あ 配達にします〜〜? 」
レジの物慣れたオバチャンは ぱぱぱ〜〜〜〜っとレジを済ませると
カートの中身をざっと見ている。
「 あ 大丈夫です〜〜 」
「 かなりの量ですよね? ああ お車ですか オクサン 」
「 え ええ 」
自身の手で持てます、とはとても言えないので
フランソワーズは曖昧な笑顔でハナシを流した。
「 よ・・・いしょ・・・ ! 」
かさばるレジ袋を二つ、両手に下げると フランソワーズは
ガシガシと スーパーから出ていった。
ぽつ ぽつぽつ ぽつぽつぽつぽつ〜〜〜〜
「 え!? あ やだ〜〜〜〜 雨 降ってたんだった〜〜〜 」
一瞬 傘を買いに戻ろうか と思ったが足が止まった。
傘 持っていったら ・・・? 午後から雨だって
え〜〜 そう? 多分降らないわ そんな気がする・・・
< 見え > ない? 雨雲とか ・・・
そんなもの < 見 > ないわ!
とにかく 降らない。 そう思うだけ。
なんとなく不機嫌に切ってしまった今朝の会話を思いだしたのだ。
「 ふ ふ〜〜ん ・・・ 今更傘をかってゆくのも シャクだし〜〜〜
うん 平気! そのうち 止むわ 帰ろっと 」
彼女は がしがし〜〜〜 前方へと歩き続けた。
「 ・・・ う〜〜〜 なんでバス こないのぉ〜〜〜 」
バス停の狭い屋根の下で 半分濡れつつ、フランソワーズは足踏みをする。
午前中は ぽかぽか陽気だったのだが 降り出した雨がどんどん気温を
引きずり下ろしている。
薄い春モノのジャケットは 濡れてぴたり、と肌に張り付き保温の役割は
全く果たしていない。
「 もう20分は 待ってるのに ・・・・ 」
辺りを見回すが いつもの周回バスの姿は見えない ・・・ そして。
「 ? あれ? そういえば ・・・ バス待ちのヒトもいないわ?
なんで? 夕方なんかいつも列ができているのに・・・ 」
あ。 時刻表の上の張り紙に ようやっと気づいた。
○日 午後 岬巡回コース : システム・メンテナンスのため 運休いたします。
お客様にはど〜のこ〜の・・・と 以下続く紋切型の、まったく! ココロなんか
籠っていない表現は 読むのもイヤだった。
「 ・・・ そ〜いえば 今週 ず〜〜っとなんか車内放送で言ってたっけ・・・
全然聞いてなかったけど ・・・ 」
ミッション時は 蜜蜂の羽音すら拾う < 耳 > ゆえ
普通の日々 では 好きな音しか聞かない。
御多分に漏れず 彼女はず〜〜〜っと音楽を聞いていたのだ。
「 ! しょうがない ・・・ あるこ ! 」
濡れて困るものは ない。 彼女自身 くらいなものだ。
ミルクなどの乳製品 は ビニール袋入り だし 野菜類は・・・
まあ 濡れた方が鮮度が増す ・・・ かもしれない。
よ お〜〜し。 ふふん 003様の実力発揮だわ〜〜
わたしだってサイボーグなのよ?
・・・ こ こんな雨くらい なんでもないわ !
きゅ。 両手でレジ袋を持ち直した。 ショルダー・バッグはやはり
濡れては困るので りゅっくの中に突っ込んだ。
ぱしゃ。 雨の中に踏み出した。
「 ふ ふ〜〜ん あら もうそんなに冷たい雨 じゃないのね〜
これなら 大丈夫。 えっと 国道沿いに進むのが最短距離だわね 」
大荷物を持ち フランソワーズはのっしのっしと歩いてゆく。
ぴちゃ ぱちゃ ぴちゃ ぴちゃ
靴の中に雨が入り そしてまた跳ね飛んでゆく。
「 う〜〜〜 みはま の靴なんだけどなあ〜〜〜 お気に入りなのよぉ
・・・ いっそ裸足で歩いても変わらないかも・・・・
いえ やめましょ、レディはそんなこと、いたしません 」
がば ごぼ ごぼ ・・・
どうやら水は彼女のお気に入りの・大事な・靴の中を通過していっている様子だ。
「 ふ ふん ・・・ いいもん。 ちゃんとメンテしてあげるからね〜 靴さん?
あ〜 国道なのに通るクルマも ナシ かあ 」
一応 きちんと整備してある大きな道にでたが
そこは すでに幾筋かのせせらぎ?が 流れる場所になっていた。
「 ふ〜ん だ。 クルマ こないのなら − 真ん中 あるこっと〜〜
あ〜〜 なんか清々していい気分〜〜 こんな経験めったにできないわよね 」
さ −−−−−−−− 雨は 降り続く ・・・
びちゃ びちゃ びちゃ
ぺったり張り付いた金髪を 時々煩さそ〜〜に払いのけつつ
かつ 大荷物をかかえて彼女は歩いてゆく。
「 ・・・ 四分の一 は来たわ・・ あ ら ? 」
こと こと こと
前方の雨のカーテンの中から なぜか聞きなれた足音が聞こえてきた。
「 ファンション その荷物の持ち方、よくないわ 」
中年の婦人が柔らかく微笑みかけてきた。
「 ・・・ ま ママン ・・・? 」
「 なんて顔 しているの? ほらほら ちゃんと荷物の重さをね
左右均等にしなくちゃ・・・ 身体が曲がってしまいますよ 」
「 あ は はい ・・・ 」
「 相変わらず 無頓着ねえ あなたは 」
「 ママン ・・・ 」
「 ほらほら ・・・ 下着の線がこんなに露わになってますよ?
はしたないわ。 」
母の白い指が フランソワ―ズのブラウスを指した。
「 あ・・・ ぬ 濡れちゃったから ・・・ 」
「 レディはいつもきちんと気配りをしていなければね。
それで 今晩の献立は決まっているの? 」
「 え ・・・あ ま まだ ・・・ 」
「 そう? そうねえ・・・ 冷え込む季節ではないけれど
雨だし・・・ ミルクをつかってクリーム・シチュウはどう?
チキンでさっぱり軽めに仕上げなさい。 セロリ あるわね 」
「 ウン 」
「 よかった ・・・ アナタの大切なヒト達がほっとする食卓を
準備するのですよ 」
「 はい ママン! 」
「 いつも愛してますよ 」
母は す・・・っと彼女の頬に唇をよせると ― ふっと消えた。
あ ・・・ ! ママン ・・・
「 ・・・ ありがと ママン 」
降りしきる雨の中 フランソワーズの目尻にはじんわり・・・温かい涙が
滲んできた。
「 ・・ 大切なヒト達ほっとする、 よね。
ええ わたしの腕のみせどころ だわ。 ・・・ 行こ ! 」
ぎゅっと荷物を持ち直し 彼女はまた雨の中を歩き始めた。
びしゃ くちゃ びしゃ くちゃ
雨の中 一歩づつでも家に近づきつつは ある。
「 ふん ・・・ さ サイボーグでよかったもんね!
わたしは〜〜〜 サイボーグ 003〜〜〜〜 」
多少やけっぱちで 雨空に向かって叫ぶ。
「 ファン? なに なんだって? 」
突然 隣で声がした。
「 ??? あ〜〜〜 ミシェル〜〜〜〜 」
「 あ〜 じゃないよ 僕を呼んでくれよ 」
「 え ・・・ 」
「 傘 ないんだろ? ほら 荷物、僕がもつから。
え〜〜〜 なんだって女性がこんな荷物 持ってるんだい 」
「 ミシェル ・・・ 」
藍苺みたいな瞳が じ〜〜っとフランソワーズを 見つめている。
ミシェル ・・ いつも いつも 優しいミシェル・・・
「 え あの ・・・ あの 平気なの!
ああ ダメよ、若きダンサーは 踊り以外に脚に負荷をかけては 」
「 なにいってるんだい 愛する女性のピンチを救えない で
どうして観客を感動させる踊りができる? 」
「 ・・・ ミシェル ・・・ 」
「 次はきっと 組んで踊る! 君のキトリと俺のバジル
絶品だと思わん? 」
「 思う〜〜〜〜 」
「 僕は いや 僕が ファン、 君を最高に美しく踊らせる!
そんなパートナーになる
」
「 ミシェル ・・・ あなたはそのままで十分 素敵よ 」
「 いや 現状維持なんてダメだよ 変化しないってことはどんどん
劣化してゆくことだから。 」
「 ・・・ ああ ミシェル。 あなたのそのすぱっとした
考え方、 あなたの トゥール・ザン・レール と同じくらい
す て き ♪ 」
「 メルシ、マドモアゼル。 あの さ。 今度 きみのお兄さんに
お目にかかりたいんだけど 」
ほわほわな金髪が ちょろっと揺れた。
「 え ? 」
「 あの だめ かな。 」
「 ・・・ 兄は ・・・ 」
「 あ そか。 空軍さんだもんね、休暇の時、是非教えてほしい 」
「 ・・・ ミシェル ・・・ 」
兄とはまた違う魅惑的な藍色の瞳を フランソワーズは古傷をひっかくみたいな
気分で 見つめ返すのだった。
あのね わたし ・・・
「 ファン 僕の愛する人 君の幸せが僕の望みさ 」
藍い瞳のフランス青年の姿は 輝く笑みを残し雨煙のなかに消えてしまった。
「 ごめん・・・ ごめんなさい! 好きだったわ 愛していたわ ・・・
わたしの ミシェル ・・・ 」
003 なんて記号など知りもしないフランス娘が 雨の中で呟いていた。
「 ・・・ 行かなくちゃ。 」
雨のシャワーの中 フランソワーズは呟く。
「 行かなくちゃ いけない。 いま ここで わたしの
できることを しなくちゃ ・・・ 」
両手の荷物は もう重いのかどうかも感じない。
「 ・・・ 」
びちゃ ぐちゃ びちゃ ぐちゃ
しっかりと前だけを見つめ 足を踏みしめ歩いてゆく。
どうして ・・・? なんて わかんない。 ただ 行きたいだけ。
ぴっちぴっち ちゃっぱ ちゃっぱあ〜 ♪
「 ・・・え? 」
突然 灰色の雨の中から賑やかな声とともに
10歳には届いていないオトコノコとオンナノコが 駆けてきた。
二人ともビニールのレインコートを着て 小さな傘を担いでいる。
え ・・・ この雨の中 小さい子供が?
・・・ってこんなとこに コドモいる?
「 おか〜〜さ〜〜〜ん 」
「 おかあさん〜〜 」
・・・ おかあさん ?? 誰のこと?
「 どう〜〜〜ん わあ おかあさんってば びちゃびちゃじゃん 」
「 おか〜さん かさ! 僕のかさ! はい! 」
いきなり 金髪の女の子が飛び付いてきて びっくり顔。
ばさ。 小さな青い傘をもって男の子が駆け寄る。
「 ・・・・??? 」
「 おか〜さんってば〜〜〜 傘 わすれたのぉ? 」
「 おかぜ ひいちゃうよ? ほら僕のかさにはいって おか〜さん 」
生暖かい小さな身体が 手が ぴたぴたと纏わりつく。
「 あ あの ・・・ 」
「 アタシたちね〜 おか〜さん おむかえにきたの〜〜 」
「 きたんだ〜〜 僕たち 」
「 はやくアタシたち を だっこしてね 」
「 僕たち に ちゅ してね 」
「「 ね〜〜〜〜 」」
最高の笑顔が フランソワーズにぴたりとくっつき全開する。
「 はあ〜い ほら いらっしゃい 」
フランソワーズも ごく自然に満面の笑顔で二人を抱き留めていた。
おいで おいで わたしの !
それはごく自然な 身体の底からにじみ出てきた感覚だった。
わああ〜〜〜〜い わいわいい 〜〜〜
二つの小さな身体は 輝く笑顔は ― しゅるしゅると彼女に溶け込んでいった。
そう・・・・ 乾いた大地に水が染み込むように ・・・
「 え ・・・・? あ あの ・・・? 」
空っぽの両手。 でも なにかとてもとても大切な充実感が身体に残った。
あの子たちは。 わたしの。
こくん、とフランソワーズは頷いた。
「 さ。 行きましょ。 あと少しね 」
さ −−−−−−− びちゃ びちゃ ぐちゃ ぐちゃ
両手に濡れた荷物を下げ ずぶ濡れの乙女は 元気に歩き始めた。
このカーブを曲がれば 海岸通りへ折れればいいのだ。
「 ・・・ さあ〜〜 行くぞぉ〜〜〜 」
例の急坂めざして ガシガシ歩き始めた。
びっちゃ くっちゃ びっちゃ くっちゃ
足元はもう なにがなんだかわからない状態だけど 足取りは軽い。
「 よ〜し。 美味しい晩御飯目指して〜 すすめ フランソワ―ズ! 」
「 そうだ その意気だぞ ファン。 」
「 え?? 」
隣、いや すぐ後ろで 泣きたいほど懐かしい声が聞こえた。
フランソワーズは なぜか振り返ることができなかった。
「 ・・・ お お兄 ちゃん ・・・? 」
「 それでこそ フランソワーズ・アルヌールだぞ 」
「 ・・・ う うん 」
「 お前が 行くべきところ へ すすめ。 」
「 うん。 ねえ お兄ちゃん アタシね 」
「 さあ そのまま まっすぐ進むんだ。 」
聞きなれた、 そして もう一度聞きたいと泣いて願っていた その声。
兄の声は 力強く彼女の背を 押す。
さあ ゆくんだ。 ファン。
うん お兄ちゃん。
こっくり頷き それでも どうしてもどうしても ひと目・・・と
振り返ろうとした時。
ジャバ ジャバ! 雨を蹴立てた足音がして ―
「 フランソワーズ ・・・ ! 」
目の前に 茶髪の青年が立っていた。
セピアの瞳が なぜか泣きそうになりつつ じっと見つめてくる。
「 ・・・ あ 」
フランソワーズは一瞬 身体を強張らせ 表情も強張らせて 突っ立っていた が。
どうしたの? どうしたんだい? どうした?
さっき 雨の中で出会った人々の声が聞こえる。
さあ お前の行くべきところへ すすめ。
ファン、 あなたの大切なヒトを大切にするのよ
君の幸せだけを願っている
おか〜〜さ〜〜〜〜〜ん おか〜さ〜〜〜〜ん
その声は耳の奥で懐かしい声となり 彼女を包んだ。
「 ん。 ありがと、 みんな 」
フランソワーズは 一旦、きゅ・・・っと目を閉じてから 顔をあげた。
碧と茶の瞳が しっかりと見つめあう。
「 ジョー。 」
彼女は 絞りだすみたいに でも はっきりと彼の名を呼んだ。
「 ほら! 」
その途端 ジョーは ちょっとばかり怒った顔で がばっと ―
本当にがばっと、大荷物ごと 彼女を抱き上げた。
「 ? うわお? 」
「 さあ ゆくよ。 まさか加速装置は使えないからね 」
「 え ゆくって わ わあお〜〜 」
ジョーはそのまま ― つまり彼女と荷物を抱き上げたまま がしがしと
坂を上りはじめた。
「 ちょ ちょっと ・・・ 」
「 あ 〜 あのさ できれば動かないでほしいんだ。 」
「 重いでしょ、ごめんなさい ・・・ 」
「 え? ぜ〜んぜん。 この雨だから ちょっと急ぐ。
もし足 すべらせちゃったらきみを放りだしちゃうからね〜〜〜
さ じ〜〜〜っとしててくれよ 」
「 ・・・ わかったわ 」
だだだだ だだだだ だだだだだだだだだ −−−−−
彼自身もびしょくたになりつつ ジョーは < 大荷物 > を
毎日の散歩の時みたいな顔で 淡々と坂の天辺まで運んでいった。
「 ・・・と。 さあ ここで待ってて 」
「 え 」
そうっと彼女と荷物を玄関前のポーチにおくと、彼はあっと言う間に
家の中に消えていった。
ふう ・・・ なんか泳いだ後みたい・・・
あ そうね、雨の中を泳いできだんだわ わたし。
いろいろな < ひとびと > にも会えたし・・・ と フランソワーズは
なんだか心の中からじんわ〜〜りしていきていた。
「 ・・・ もしかして素敵な午後だった・・・のかも・・・
あれ ちょっと・・・寒い かも ・・・ ふぁ ふぁ ふぁ〜〜〜っくしょん! 」
彼女が大きなくしゃみをした時 ―
「 フラン。 風呂だ! 」
バサ。 玄関が開くと同時にバスタオルが飛んできた。
「 きゃ・・・ 」
「 荷物 おいて。 靴もそこに置いて。 よ いしょ ・・・! 」
「 ・・・ きゃ? 」
靴を脱いだ途端にまたも抱き上げられた ― しかもバスタオルで
包まれて。
「 ジョー〜〜〜 おろして 」
「 ダメだよ きみ、こんなに身体、冷え切ってるもん。
このまま 風呂に入ってし〜〜っかり温まって! 」
「 じ 自分で歩いてゆくわ 」
「 きみ ぐしょ濡れってわかってる? 家の中に水溜り点々〜
になるだけだよ 」
「 ・・・ 」
「 あ 着替えね、ぼく わかんないから ・・・
パジャマ もってきておくね 」
「 え ・・・ 」
「 あ 勝手に部屋には入らないよ〜 ちょうど洗濯終わったのが
乾燥機の中にあったから 」
「 ・・・ いろいろ気がきくのね、ジョー 」
彼女はちょっとばかり 嫌味気味に言ったのだが・・・
「 とにかく早く風呂! な! 」
「 あ あの ・・・ 晩ご飯 ・・・ 」
「 あ ぼく、作っといた。 筑前煮なんだけど・・・
まあ熱々に煮ておくからさ〜〜 ご飯もそろそろ炊けるし。 」
「 ・・・ そ そう ・・・
あ ミルクとかヨーグルト 買い物袋の中に 」
「 わかった〜 冷蔵庫、いれとくよ。
なんかさ 美味しそうな野菜 いっぱいありがと! 」
「 わたしが食べたかったの 」
「 ぼくも食べたい〜 さあどうぞ 」
とん。 彼は彼女をバス・ルームの中に入れると とっとと出て行った。
― 相変わらずの笑顔のまま。
「 ・・・ ジョー って。 なんかほっんと ・・・ 」
濡れて肌に張り付いている服を脱ぎ棄てつつ フランソワーズは呟いていた。
口先では ぶつぶつ言ってたけど 口元はどうしても どうしても
・・・ 綻んでしまうのだった。
夕食は いつもよりも30分近く遅くなってしまった。
雨は まだ降り続いていたが この家の家族三人は ともかく
湯気のたつ晩御飯のテーブルを囲んだ。
「 博士〜〜 遅くなってすいません 」
「 いやいや お? 美味そうじゃなあ〜〜 いい匂いじゃ 」
「 ジョー ありがとう! ああ 本当、これは なあに? 」
フランソワーズも風呂上がり、ピンクのほっぺだ。
「 あ あの・・・ これ、筑前煮 なんだ。 」
「 ちくぜんに? 」
「 ウン。 ぼくのカレー以外で唯一出来る料理・・・
チキンをね〜 人参とか牛蒡とか根菜類と煮たんだ。
サトイモがなかったから ジャガイモいれたけど ・・・ 」
「 ほう〜〜〜 では いただくとするか。
〜〜〜 おお いい味じゃぞ、ジョー〜〜〜 」
博士は味のしみたチキンを美味しそうに味わっている。
「 ん〜〜〜〜 あ 人参とかごぼう? 美味しいわあ〜〜
・・・ ジャガイモも 〜〜 最高! 」
「 えへ そ そう?? よかったあ〜〜〜
あ・・・っと。 サラダ サラダ〜〜 和風なんだけど・・・
ほうれん草を茹でたんだけどさ このゴマ・ペースト、かけてみて? 」
「 こう・・・? 〜〜〜 美味しい♪ 」
「 どれ・・・ おお〜〜 胡麻がいい香じゃ 」
「 え へへ よかったあ〜〜〜 」
その日の晩御飯はハナシも箸も進み 皆、笑顔で楽しんだ。
は〜〜〜 っくしょん ・・・ !
最後にフランソワーズが大きなくしゃみをした。
「 うん? フランソワーズ 大丈夫か 」
「 は はい。 」
「 ずっと雨の中を歩いてきたのじゃろう? 冷えてしまったか? 」
「 さっきお風呂で温まったから 大丈夫ですわ 」
「 フラン、もう寝た方がいいよ 」
「 あら 後片づけくらい、わたしにやらせてよ 」
「 今晩はぼくがやる。 きみはベッドに入れ 」
「 え・・・ でも 」
「 いやいや 風邪をひかん用心じゃ。 」
「 大丈夫 ・・・ ふぁ ふぁ〜〜〜っくしょん ・・・ ! 」
「 ほらほら〜〜〜 博士。 彼女を部屋まで送ってください。 」
「 ほい ひきうけた。 さあ おいで 」
「 ・・・・・ 」
博士に背を押され、 フランソワーズは大人しく二階へ上がっていった。
わたし サイボーグよ?
風邪なんて ・・・ ひくわけ ないじゃない〜〜
「 それじゃ お休み。 ちゃんとベッドに入るのじゃぞ 」
「 ・・・ はい お休みなさい 博士。 」
部屋の戸口でしっかりクギを刺されてしまった。
ぱたん。 ・・・ ずさ。
ドアを閉めるなり ベッドにダイヴしてしまった。
「 ・・・ ふう 〜〜〜 」
一時間近く雨の中を歩いたのは やはり身体にはダメージだった。
雨や嵐の中のミッションは何度もあったけれど 防護服はさすがに
彼女らをしっかりと護ってくれた。
今日は 全く普通の服 だったのだ。
「 あ は ・・・ やっぱりちょっと 疲れたかも〜 」
ふぁ ふぁ ふぁ〜〜〜っくしょん!
また一つ、くしゃみをすると ― 彼女は眠りに ・・・
≪ どうして 呼ばなかったんだ ? ≫
・・・ 落ちる 寸前に、アタマの中にメッセージが飛び込んできた。
「 ・・・ あ ・・? ジョー ・・・ あした ね ・・・ 」
夢うつつで呟くと フランソワーズの長い睫は完全に頬に落ちた。
・・・ ? あつ ・・・い ・・・?
なんで?? ヒーター ?
ううん ・・・ つけてない ・・・
う ・・・ 身体全体が 熱い わ のどが いたい ・・・
真夜中 ― いつもの心地よいはずの眠りに なにかが起きた。
Last updated : 04,23,2019.
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********** 途中ですが
雨の日 って ちょっと不思議で魅惑的 ??
雨の向うから あなたの前には 誰が現れる かな〜
後半は ちゃんとジョー君の出番 あるにゃん(^_-)-☆